「くすりや」の「現場」

薬屋が見た、聞いた、考えた、さまざまなことを書いていくブログ。「ブログに書いてある情報は一般的なものです。ご自身に合ったものにするにも、受診している医療機関のスタッフ、かかりつけの薬局の薬剤師に相談しましょう。」正論でぶっ叩かない医療者に!

肥満症治療薬「ウゴービ」

肥満症治療薬「ウゴービ」が世に出ます。これ、何もしなくても痩せられる薬という認識でメディアに取り上げられそうなので、そうではないことを申し伝えておきます、

 

 肥満と肥満症は異なります。端的に説明すると、肥満が元ですでに別の病気を併発している状態を肥満症と呼び、これはれっきとした疾患です。

  肥満症の診断基準に必須な健康障害    

1) 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)  

 2) 脂質異常症  

 3) 高血圧  

 4) 高尿酸血症・痛風

 5) 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症  

 6) 脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)  

 7) 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)  

 8) 月経異常・不妊  

 9) 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)・肥満低換気症候群  

10) 運動器疾患:変形性関節症(膝・股関節)・変形性脊椎症・手指の変形性関節症  

11) 肥満関連腎臓病

 

肥満症の定義は上記1-11の疾患がすでにあるか、かかるであろうと予見される人で原料が必要となる場合とされています。が、これだけでウゴービの適応にはなりません。

 

高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。

1.BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する 
2.BMIが35kg/m2以上

 

身長160cmの場合 

 1.は69.12kg 2.は89.6kg

身長170cmの場合

 1.は78.03kg 2.は101.15kg

まずは運動療法と食事療法をきっちり行った上で効果がなければようやく治療となるのですが、おいそれと処方されません。 

「セマグルチド(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(肥満症)の作成について(令和5年11月21日) 」という通知が出ていまして、大学病院クラスでないと処方できないものとなっております。

 

 ① 施設について

・ 内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科又は糖尿病内科を標榜している保険医療機関であること。

・ 高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の病態、経過と予後、診断、治療(参考:高血圧治療ガイドライン、動脈硬化性疾患予防ガイドライン又は糖尿病診療ガイドライン及び肥満症診療ガイドライン、肥満症の総合的治療ガイド)を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)の指導のもとで本剤の処方が可能な医療機関であること。 ・ 施設内に、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医いずれかを有する常勤医師が1人以上所属しており、本剤による治療に携われる体制が整っていること。また、以下の<医師要件>に掲げる各学会専門医のうち、自施設に所属していない専門医がいる場合は、当該専門医が所属する施設と適切に連携がとれる体制を有していること。

・ 以下の<医師要件>に掲げる各学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であること。

・ 常勤の管理栄養士による適切な栄養指導を行うことができる施設であること。実施した栄養指導については診療録等に記録をとること。

 

 <医師要件> 以下の基準を満たすこと。

➢ 医師免許取得後2年の初期研修を修了した後に、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病並びに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有していること。 又は 医師免許取得後、満7年以上の臨床経験を有し、そのうち5年以上は高血圧、脂質異常又は2型糖尿病並びに肥満症の臨床研修を行っていること。

 ➢ 高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する以下のいずれかの学会の専門医を有していること。 ・ 日本循環器学会 ・ 日本糖尿病学会 ・ 日本内分泌学会 なお、日本肥満学会の専門医を有していることが望ましい。   

 

② 院内の医薬品情報管理の体制について  製薬企業等からの有効性・安全性等の薬学的情報の管理や、有害事象が発生した場合に適切な対応と報告業務などを速やかに行うこと等の医薬品情報管理、活用の体制が整っていること。  

 

③ 副作用への対応について  医薬品リスク管理計画(RMP)の安全性検討事項に記載された副作用や、使用上の注意に記載された副作用に対して、当該施設又は近隣医療機関の専門性を有する医師と連携し、副作用の診断や対応に関して指導及び支援を受け、直ちに適切な処置ができる体制が整っていること

 

 しかも、同通知では68週までしか使用できないことになっています。

 

 そもそも糖尿病の薬の投与量を増やしたものです。痩せている人が使用すると過度の低血糖で命の危険にさらされる可能性が少なくなく、そこまでいかなくてもフラフラになる可能性がありますし、これで合わなかったら本当に糖尿病になった場合の治療薬が1カテゴリー使えなくなるので、治療法を狭めるようなことはやめましょう。

 

 

 

 

 

 

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薬剤師フィールドリサーチ(134)「現場に求められるのは倫理観」

今回は2024/2/28発行の薬局新聞「薬剤師フィールドリサーチ」の記事を掲載します。

 

先日訪れた市販薬の売り場、商品POPに「お一人様1点まで」「服用者の年齢を確認」といった記載がありました。購入者に対し注意喚起を行うと同時に販売する側への引き締めにもなっています。

 市販薬は資本主義経済の上に乗っていて、どうしても売上や利益という数字が販売する側の脳裏にちらつくのですが、確かな安全という基礎のもとでの話です。

 昨今、医薬品市場に限らず様々な業界で品質不正の問題が起こっています。企業は安い値段や早い納期で売上を逃さないようにと躍起になっていますし、顧客も安い値段を望みますが、安全は絶対的なものなので言葉にしていないだけなのです。

 まずは現場から「安全が前提である」という姿勢を客に見える形で示さないといけないなと感じました。ただでさえ、「営利企業には医療は任せられない」と医療系の他の職種に言われているのですから。どこの企業も安全は当たり前。それを見失ったら企業ごと消えてしまいます。現場だけでなく、経営・マネジメント層も売上や利益といった数字以上に安全を打ち出すよう現場を支援してほしいものです。

 気を引き締めて医薬品販売の場に立ちましょう、安全という信頼が築ければ、その場の売上が得られなくてもまたの機会に同じお客さんが来るでしょう。ファンを増やすこと。これが適切なセルフメディケーションの推進方法ではないかと思います。

 

 

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在宅専門薬局はありかなしか

 結論から言えば「ありだが、特定のスーパーマンだけで回っていると運営が危うい」です。

 

 今回は「在宅専門薬局」について解説します、

 

 この世には、自宅で療養していて、通院が難しい方がいます、

 入院するほどではないが、疾患自体は重い、もしくは老化などで体の機能が落ちて動けない患者さんです。がん末期の方で、最後は自宅でという方もいます。

 こういう方を入院させていれば家族は世話をしなくて良くて心身ともに楽ですが、この高齢化社会ではいくら病院や施設があっても足りません。離れて暮らしているうちに病気の家族のとの心身ともに距離が離れてしまいます。病気になるわ家族は離れていく元々の疾患が更に悪くなってしまいます。その上、人手もかかるので社会保障費が増えるばかりです。

 そこで、自宅で療養できる環境を作り、病気でもそれなりに社会との距離を保ちつつ生活できるようにしたのが在宅医療であり、介護保険です。

 

 在宅医療を支える医療職は結構います。在宅医療専門で動いている診療所や薬局もあります。行政としてはけしからんみたいですが、専門的な知識が必要だったり、休日夜間対応を個人の診療所や薬局が行うのは心身ともにきついです。*1医師調査、一人で夜間対応をするのは難しくなってきています、薬局の場合は男女比の問題で、女性の方が多く、薬剤師自身が子育て・介護中のことがあります。

 在宅専門の薬局や医療機関は在宅の方の患者さんの比率が高く、施設や患者さんの急な変化にも早く動けます。すぐ動けて麻薬や点滴の対応経験が多いとなると、医療従事者や介護従事者からの評判が良く、関係者からの紹介で依頼が多くなるという形になっています。

 これは、地域の薬局から見れば隊員や施設入居とともに今までの関係が途絶えてしまうという問題があります。地域の薬局がそもそも結びつきが強ければ連携という形を組んで、やっていくという形があります。

 すべての薬局が無菌調剤ができるわけではないですし、すべての患者に必要となるとは限りません。現状、無菌調剤を行える薬局は少ない。

 

在宅専門薬局の一部には、外来の処方箋を持って行きづらい外見をしていたり、そもそも薬局なのかわかりにくい外見をしていることもありました。

 実際は、多くの在宅特化型薬局は門前に診療所や病院がないところに建てて、施設や介護事業所に営業をして在宅患者の処方箋を持っています。

 それに気づいていたんでしょうか厚生労働省。2024.6月からの加算(在宅総合体制加算2:ガチで在宅医療に関わっているところ)に「常時2名以上勤務し処方箋を応需できる体制を取ること」と規定しています。6月以降はスタッフ間で連携を取って誰かが薬局にいる時間を作ると見ています。

 

 個人的に気になるのですが、在宅特化型薬局の薬剤師の方、やはり休日や夜間に働いている印象を受けます。しかも忙しいことを充実していると認識している人が多い印象です。「鬼滅の刃」でいうころの「痣が出ている」(その代わりに命を前借りしている。痣が出ると25歳で死ぬ)状態ではないことを祈ります。

 

 家庭や命を削ってまで働いていないことをお祈りして。

 

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*1:診療所の医師の平均年齢は60歳を超え

薬剤師フィールドリサーチ(133)「お薬手帳に市販薬の情報を」

今回は2024/2/14発行の薬局新聞掲載「薬剤師フィールドリサーチ」の記事を掲載します。

 

 先日、SNSで「服用した市販薬の包装と成分を記載したものを貼っているお薬手帳」を掲載された方がいました。それはいい方法と多くの方の称賛のコメントと他の人も真似てほしいと拡散の書き込みがなされていました。

 

 その方の何が良かったかと言えば、「薬の成分と製品名を両方掲載している」ことです。市販薬の商品名だけだと、昔のもので販売中止になっていたりリニューアルされていたりで成分が特定できない可能性があったからです。成分をお薬手帳だけで確認できるので、本人が意思を伝えられないときでも他の人に服用している(いた)ことが伝わりやすくなります。

 

 スイッチOTCの拡大が話題になっています。市販薬の適正使用、セルフメディケーションの推進のためにも販売店側、メーカー双方にお願いしたいことがあります。

 販売する方へ

お薬手帳にも市販薬の情報を記載するよう啓蒙、もしくは販売側での記載

POPやチラシなどで活用方法を提案するのも方法です。

 製造する側

製品名と成分名を併記した包装にしてほしい。もしくはお薬手帳に貼れるような紙やシールを添付してほしい

販促品として、市販薬の情報をお薬手帳に貼るようにと啓蒙するPOPを作成してほしい

これを、全国の多くの店が行えば、市販薬への信頼が上がるのではないでしょうか。

 

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薬局機能情報の入力が面倒

 厚生労働省の提供する医療情報システムG-mis。2024年2月現在、薬局機能情報を入力している方が多いと思います。

 

 詳細すぎて誰が見るのか、しんどい時には見たくないぐらいの情報量です。

「禁煙」「高齢者」「栄養」など、相談内容ごとに回答できるかどうか尋ねてくるのですが、そもそも地域住民からの相談がすべて一つの分野で収まるとは限りません。一人の相談者ごとにオーダーメイドで答えを出していくのですから。わからないことがあったら、調べます。嘘を言ってはいけないというのは肝に銘じて。それがプロです。

 あと薬局の面積、これは利用者には直接関係ないやろ!

 

 本当に困っている人がこの文字の細かすぎる情報システムを見て正確な情報にたどり着けるか疑問です。まずこの情報システムにたどり着けるかどうか。

 

 これだけの情報量を入力するのも面倒です。

一番言いたかったのはこれです。

みんなシステム出来上がったら見てね・・・願わくはもう少し実情にあったものにしてほしいと意見を行ってほしいです。

 

 

 

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たとえ重大事件の容疑者であっても

 

 とある重大事件の容疑者が瀕死の重症でした。助かる可能性はごくわずかでしたが、必死の治療の結果、なんとか一命はとりとめました。そして、裁判の結果、死刑判決が出ました。

 

 裁判する前に死ぬのと、判決が出て死刑になる。被害者やその家族、被告だけでなく、治療に携わった医療者にとってもこの2つは大きく意味合いが異なります。納税者からすれば、自分の支払う税金が被告に使われる分が他のことに使われるからいいのかもしれませんが、正当な裁判を経て刑の執行がなされることの意味は大きいです。

 被害者やその家族にとっては、刑をもって責任を果たすことや、被告が何を思って罪を犯したかわかることで少しは救いになるでしょう。

 被告にとっても、話したくないであろう自分の罪を突き詰められることで、自分のしたことの大きさを思い知ることになります。

 

 もし、重大な犯罪者だから助けなくていいということがまかりとおるなら、医療者は気に入らない人を殺めることができるようになります。医療者に必要以上にひれ伏す人が出るでしょうし、いわゆる無敵の人に医療者の命が狙われるリスクが大きく高まるでしょう。

 

 医療者は、どのような人でも命の状態に応じて医療行為をすることで、心身への侵襲を許されています。(実際に危害にあったり、そのすれすれの場合は治療はなされません) 誰にでも公正にということを最も重く感じているのは医療者です。

 

 

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薬剤師フィールドリサーチ(132)「インターネット販売とネット電話利用による販売は違う」

今回は2024年1月24日発行の薬局新聞「薬剤師フィールドリサーチ」の記事を掲載します。

 

 「有資格者によるネット電話での説明を条件に一部の薬の直接対面販売を義務としない」

 

メディアでは「医薬品のネット販売全面回解禁」と書くのはミスリードではないでしょうか。

販売時に専門家の目を通す、というのは変わっていません。購入者との対応の結果、販売するしないを決めます。

 この結果、ドラッグストアの薬剤師や登録販売者の雇用は減るでしょうか?私は、そう大きくは減らないと考えています。

 対面販売が必要な市販薬はまだありますし、第一類医薬品や要指導医薬品を販売するたびに対応が必要なため、それなりの人数の有資格者は必要です。むしろ、今までよりも有資格者が対応する数が増えるでしょうから、お客さんを対応のために待たせないようにするために、都心部での有資格者の採用はそれなりにあると考えています。薬剤師や登録販売者が一日中販売対応をすることになりそうです。

 

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