「くすりや」の「現場」

薬屋が見た、聞いた、考えた、さまざまなことを書いていくブログ。「ブログに書いてある情報は一般的なものです。ご自身に合ったものにするにも、受診している医療機関のスタッフ、かかりつけの薬局の薬剤師に相談しましょう。」正論でぶっ叩かない医療者に!

医薬品供給問題について

 薬をもらうたびにジェネリックのメーカーが替わっている。

 

 最近こういうことありませんか?

 

実は非常に深刻な問題があるのです。

 

1.医薬品メーカーの製造不正問題

 2020年12月

 後発医薬品メーカーの小林化工製造の医薬品で不正が発覚。(水虫薬に睡眠導入剤の成分が混入していた)健康被害も生じています。ここで、行政が立ち入ったところ、厚生労働省に提出した手順書と違う製造方法で薬を作っていたり、製造記録を改ざんしたりとあれよあれよと不正が発覚しました。そして、行政停止処分、該当する薬の回収、このメーカーの薬を使いたくないという医療従事者と患者の希望による売上減でみるみるうちに企業は立ち行かなくなり、工場は他のメーカーに売られ、医療機関や薬局などに謝りに行っていた営業の社員は順次解雇という話です。

 安全対策の部分を削らなければ企業は残ったという話です。

 

 小林化工だけではありません。ジェネリック大手の日医工や長生堂、共和薬品工業でも決められた手順を守らずに薬を製造したり、改ざんがあったりと色々あって行政処分を受けるメーカーが続出しました。

 

2.それ以外にもある薬が流通しない理由

 地震で工場が損傷を受けて、操業停止せざるを得なかったニプロや薬の備蓄倉庫が放火で燃えてしまったいくつかの企業がありました。

 また、コロナ禍で世界の流通が制限され、原薬が入らないという理由で薬の供給が止める事例もあります。

 自社の検査で品質が適合しなかったという理由で回収になることは珍しくありません。発売後も検査して品質を確認している事例があります。これは品質管理がしっかりしている事例です。

 今後、増えていきそうなのが「原材料が高騰していて採算が取れないので流通が止まる(販売中止)」品目です。最近の事例では「エンシュアリキッドコーヒー味」があります。6月には流通が止まります。今後は、1mlあたりのカロリーが大きい「エンシュア・H」のコーヒー味か「エンシュア・リキッド」の他の味に切り替わると思われます。

 

現場で起こること

1.メーカー

 行政処分により操業停止になったところや、品質不適合の雛が出て出荷停止になったところの需要が回ってきて普段以上の量を作ることになる

 品質管理に厳しくなる(今までも厳しかったところはそのまま)

 原薬の納入時の検品や、製造後の品質検査などです。

 慎重に作るようになるので、生産ラインの入れ替えなどをしっかり行う

(一つの製造ラインで複数の種類の薬を作ります。別の品目を作る際に、前の時間帯に作った薬の成分が混入しているといけないので入念に作業します)

 入念に作業をするので、薬を作るのに時間がかかり、作れる量が減る

 

上記はジェネリックメーカーも先発品メーカーも同じです。ただ、先発品メーカーのほうが設備とお金に余裕があるため、対応できるという違いがあります。

 

2.医薬品卸

 メーカーより入ってくる量が減るし見通しが立たない(メーカーは確実に適合した商品の数しか伝えてこないし、伝達が遅くなる)ので発注に対応できない

 発注に対応できない場合、その旨医療現場に伝えようにも、そのための人員を削ってるところが多い(医薬品卸、利益率1-3%ぐらいのところ多いです、大手も含め)ので、どの商品がどれだけ入るのか現場に伝えきれない

 

3.医療現場

 納入の見通しが立たない→欠品が出る→後日配送となると送料薬局負担のため薬局の利益が減る

既存の患者さんの分もいっぱいいっぱいなのに、新規の患者さんの分はは受けられなくなります。

その都度入荷できそうなメーカーの薬を入れるため、同じ患者で毎回メーカーが違うこともあります。

 

 

なぜこのようなことが起こっているのか

1.需要が急激に増えて、設備拡充が追いついていない

2.コロナ禍で原薬や設備にかかる物資の納入が遅れている

3.薬価が安すぎて、採算が取れないため

 

1.需要が急激に増えて、設備拡充が追いついていない

 もともと国の医療費削減計画に「ジェネリック医薬品の普及を図る」とありました。

そして、ジェネリック医薬品を使用する割合に関する目標を立てていました。

www.mhlw.go.jp

 上記によると、2022年5月現在の目標は

「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性確保を図りつつ、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上」です。

 これに伴い、ジェネリック医薬品の使用率の高い医療機関や薬局では加算がつくようになっています。

 ジェネリック医薬品の使用率が高まるということは、ジェネリック医薬品の需要も高くなり、生産する必要のある医薬品の量も増えます。

 しかし、ジェネリック医薬品メーカーは、先発品の企業に比べて規模が小さいところがほとんどです。(中には、先発医薬品企業の子会社や関連企業というところもあります。そういうところで、「オーソライズド・ジェネリック」が製造されていることが多いです。例)第一三共エスファ、武田テバ薬品) 設備投資に回すお金が集まるのに時間がかかります。ゆえに、急な生産増強には対応できないことが多いです。

 今回のように、同じ成分の薬を作っていた他の企業の生産が止まったとなると、その企業の製造分まで他のメーカーが担当することになります。企業としては商機なのですが、ある一定以上の品質を維持しないといけない。すると、今まで供給していたところへ回すのが優先されます。(治療を中断させないために)これが「出荷調整」という状態です。

 なぜ、出荷調整という形を取るか再度説明すると、

 ・治療を中断させない

 ・メーカーや医薬品卸では誰にどれぐらい処方されているのかわからない

 ・ゆえに、過去数ヶ月の納入実績をもとに出荷する

 (長期処方の患者さんもいるので、数ヶ月まとめて勘案する)

 ・出荷調整の形を取らないと、お金に物を言わせて大企業が薬を買い占めて、ライバル医療機関を潰すという患者の命をかけたバトルをかけてくる

 

からです。

 

2.コロナ禍で原薬や設備にかかる物資の納入が遅れている

 薬の原薬の納入元は日本以外の国のことも多いです。コストの関係で中国が代表的ですが、コロナ禍で生産や輸入が止まったり遅くなっています。

 これは、医薬品に限らずいろいろな品目で起こっています。さらに最近のウクライナ情勢で燃料など入りにくくなってきています。

 物によっては需要が増してきていて、機械の部品などの値段が上がってきています。お金を持っているところはそれを高値で買って物を作り、さらに高い値段で売ります。

 この競争に日本は負けている面があります。

 

3.薬価が安すぎて、採算が取れないため

 日本の薬の価格は、一般的には新発売のときに最も高くて、だんだん安くなって、特許が切れると一気に安くなるシステムを取っています。

 かつては、2年に1回の薬価改定でしたが、これが1年に1回になり、薬価を決めるだけでも人手がかかってやすくするメリットが有るのかどうかわからなくなってきました。もしかしたら、薬価を決める側の人、暇と思われたくないのかもしれません。

 

 

answers.ten-navi.com

 かつてはあった薬価差益も今やほとんどなくなり、納入すればするほど赤字になる薬もあります。納入家の調査で、差益がたくさんあるものの次回の薬価を下げるというえげつないことをお上はやってくれます。

 薬を作っても儲からない、次の設備のためのお金も出せない、それどころか原薬も買えないほどお金がなとなると、供給が止まるのは火を見るより明らかです。

 

 医薬品として長期間使われる薬には、治療上のメリットがあるものが多くあります。

安全性だったり、効果だったり、飲み忘れが出にくかったり、保管がしやすかったり。

そう言う薬の薬価を下げずに。企業がある程度儲かる仕組みがあればここまでの供給不安は起こらなかったのかもしれません。

 品質に問題のある薬を出していた医薬品メーカーも、設備投資や従業員への給与に回すお金を出すために、どこか削れるところはないか、と考えた末やってはいけないところに踏み込んだ可能性があります。(もしくは、もっと売るために手間のかかる安全性に関する作業を飛ばした可能性もあります)

 

患者さんができること

薬をもらうところを変えない

 先の記事でもありましたとおり、メーカーや医薬品卸では出荷量をもとに医薬品の供給をしています。

 

あまり長期の処方にしない

 一度にドカーンともらうと、他の人の分がなくなります。

特に支障がなければ、きちんと薬を飲む

 体調が悪化せず、同じ処方を継続できるようにする、

もしくは体調が改善し、薬がいらなくなれば

供給不安があまり問題でなくなってきます。

 

 現在、徐々にメーカーの生産体制が整い、出荷調整が解除されつつある薬もあります。事態は短期間で変わってくるので、今は処方日数が少なめでも、待っていれば希望があるので、気長にお待ち下さい。

 

 

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