今回の記事は、自分が寄せたコメントを拡張する内容です。
熊谷信の「薬剤師的にどうでしょう」
薬剤師の働き方改革、どう考える?
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/kumagai/201801/554379.html
以下のコメントをしました。
” どの業界でもいえるのですが、制度全般を作る人がワーカホリックの人ばかりで、彼らの価値観で物事が決まっているように思います。実際の世界では、むしろワーカホリックの人は少数で、働くのが嫌いな人や働こうにも制約のある人やる気はないけど与えられたことを淡々とこなす人が多数で、彼らが粛々とこなすことで世の中は回っています。
継続して運用できる制度にするには、やる気はないけど淡々とこなす人が粛々と運用できる制度にしたほうが確実と私は思います。ワーカホリックの人が目先のことだけを考えて労働の質を高めすぎた結果、誰も後継者に名乗りを上げず事業が継続できなくなることは日本のものづくりの現場では散見されます。業務の継承は、競争相手を作り自分の付加価値を下げてしまう恐れもあります。
しかし、医療業界は人と人との関係に重きを置くので、同じ業務を行う人が増えたほうが助けられる患者さんの数は増えます。業務の継承やマニュアル化は、むしろ自身の業務を言語化して他者に伝える能力があると判断され、価値は上がるのではないかと思います。
ワーカホリックの人は得てして自分の体力を過信しがちです。働いている時に夢中になって自分の疲れや体調の変化に気づかないのかもしれません。いざ体調不良に気がついた時は取り返しのつかない状況だった、ということになったら、自分の考え方や行ってきたことを他の人が引き継ぐのは容易ではありません。
働きたい、人のためになりたい、という気持ちは強いのは認めますが、体を壊してしまっては多くの患者さんを助けられなくなってしまいます。家族も路頭に迷って、支援を必要とする人を増やしてしまう恐れもあります。細く長く働き、仲間を増やすことで日本全体でより多くの国民の健康に寄与できるのではないでしょうか。
助けられる患者さんが増えたほうが薬剤師の役割が果たせ、国民に与える印象が良くなると思うですがどうでしょう?
少数のカリスマ薬剤師がいるけどその人にアクセス出来る人数が限られる状況と、輪番でそこそこ回っている状況では、どちらがより多くの国民に薬剤師という職業が届くでしょう?
”
(ここまで)
働き方改革は薬剤師のためだけのものじゃありません。
継続して事業を運営できるようにするためのもので、最大の恩恵をうけるのは国民です。
ゆとりある働き方=さぼっていると考える人は落ち着いて物を考えてはどうでしょうか。 ゆとりある働き方=無理なく長期に渡って多くの人が業務に携われるので、多くの人が恩恵を受けられるのです。
働き方改革はシステムの問題です。どんな家庭環境、体質、性格の人であっても運営できるようにするのです。そして、仕組みを作るのには時間がかかります。運用し始めてからの問題点もあり、改善するのに時間がかかります。仕組みを作るのは、本格的に人口が減り始めてからでは遅いのです。本格的に人口が減り始めた時点で運用が安定していなければなりません。
もっと仕事をしっかりやるべきという意見もあります。長時間労働をし、私利私欲を排し、仕事に集中せよ・・・という精神論では全国各地で運用できるでしょうか?
全国の広い範囲で、長い期間サービスが提供されることが最も多くの人にいい影響をあたえることが出来ます。
「なるべく良質なサービスを広い範囲で、多くの国民が受けられる」ためにはどういう仕組みを作ればいいでしょうか?
対人サービスが多いので、
サービスに携わる人が長期間働けるようにすること
→ サービス提供者側の心身の健康が維持できること
→ 休みながら交代しつつ働ける体制を作る、それぞれが役割りを果たせるようにする(得意なジャンルの仕事に特化させたほうがいい人と、それらをサポートする人/外の地域活動、在宅、薬局内での作業。多岐にわたります)
→ 多くの人が無理なく参加できる
仕組みが必要ではないでしょうか。
今回の記事は、ノウハウの共有について書きます。
120%の能力の人1人の人が24時間365日対応するのと、近隣にいる70%の力を持つ4-5人で休みを取りながら順番で輪番対応するのでは、これから10年間にどちらが対応できる人数が多いでしょう?
裾野を広げるほうがいいですよね。
テレビの医療番組でも、スーパーマン医師の特集をよくされます。自分の体の治療なので、最高のものを施されたいのでしょう。実際は、スーパーマンでなくても治療できる疾患であっても、です。同じことを考える人はたくさんいます。自分が一番大切ですものね。自分さえ助かればあとは喉元をすぎれば忘れてしまう人も多そうです。そうなると、スーパーマンの取り合いです。しかし、一人の人に重い負担をかけるのはいい影響を与えませんし、散発するスーパーマンを期待するより、そこそこの能力の人が多く生み出したほうが良い医療を受けられる確率が上がります。
その職業の人に求められる業務レベルが高くなる
→その職業に就く人が少なくなる
→人手不足になる
→質の高い仕事をしていた人の仕事量が増える、もしくは他の業務に費やされる時間が増えて立ち行か泣かなくなる
→燃え尽きて辞めていく、最悪の場合体を壊してしまう。
→しかも、スーパーマンの技術は引き継がれないので良いサービスは途絶えてしまう。
よりよいサービスと言っても、需要と供給のバランスが大事です。いくら良いサービスを求めても、供給する人が遠くに住んでいたのでは実現できません。
それなら、近くに住んでいるそこそこのサービスを選ぶほうが実現できる可能性は高くなります。
参入する障壁を無駄に高くすることなく、多くの人がサービスの提供を受けられるようにすれば結果として多くの人が恩恵を受けられると思います。
では、裾野を広げるにはどうすればいいでしょう?
ていうか、なぜ、「意識の高い人」は裾野を広げようという発想にならないのでしょう?
自分が苦労して得た技能を安々と人にあげたくないからでしょうか? 自分に自信があるなら、自分はさらに高みに登るべく、自分にとっては簡単な仕事で誰かにさばいて欲しい仕事を分けようと考えませんか? もしかして、自分がとても崇高な存在だと思っていませんか?参入障壁を挙げることで、安定したいのでしょうか?それとも選民意識を満たしたいのでしょうか?(毒)
「高い技術を持つ町工場が後継者がいないので事業をたたむ」という話題があります。もし、本当にその技術が必要ならば、世界中から技術提供の話が来ていたはずです。それを断っていたのでしょうか?断っているうちに世界はこの技術を必要とせずにいいものが作れるようになったのかもしれません。
次世代に苦しい思いをさせたくない、と言っていますが、自分の技術を簡単に身につける方法をマニュアル化させなかったのでしょうか?疑問に思います。
自分のノウハウを簡略化して、7割ぐらいこなせる人を量産すればいいのです。
全部ではないノウハウを分け与えて、その道の第一人者になるという道もあるのです。自分の持てる技術を7割ぐらい教えて、実践できる人が10人いれば、その10人がさらに10人、100人に教えて・・・輪が広がります。弟子がさらにアレンジを加えて、あなたの技術が進化します。あなたは弟子のやり方を取り込んで技術を磨くことも出来ますし、教えることは弟子がやるので自分のやり方を極めることも出来ます。
業務の効率化、マニュアル化、情報共有・・・ これだけの仕組みを作れる人になれば、現場での技術を後進に譲っても、重宝がられるでしょう。技術を長いこと独占した結果、根っこから技術事いらないなんてことになりかねませんが、システムを作れる人ならその思考能力を買われるでしょう。長時間の過酷な労働をする必要がなくなったからと言って、パワーのある人のアイデンティティが奪われるようなことはありません。
さらにノウハウをマニュアル化し、それらの大元となって、よい影響を遠くにまで波及させられるようになれば、その人の価値は高くなります。ノウハウを伝えることはマイナスにはなりません。 そして、自分が始祖となって行われたことが、それぞれの場所で花を咲かせます。影響が長期に渡って及ぶのです。
「自分の知識は分かる人にしか教えてやらん」というケチなことは言わないでください。患者さんはたくさんいます。そして、人間の寿命は長いです。そのような態度を取る人の技術を使わずに良い医療を提供する方法を生み出されて、追い出されて終わりです。
孤高のヒーローで終わるつもりですか?
「周りが理解してくれなかった」と言って一生を終えるのですか?
こういう「パワーのある人」は世の中の大部分を占める「やる気はないけど淡々とこなす人」が運用できる方向にそのパワーを向けてほしいです。
そうすれば、もっと高みに登れますよ。
「仕事が好きで好きでたまらない人」は、それそれの世界で「自分が思い描く、高いレベルの仕事」を求めて精力的に動きます。その結果、実現できそうにない絵に描いた餅のようなものができあがり、現場で運用する人が苦悩したり揉めたりします。
そういった人ばかりが制度設計の場や運営側にいるから、やたらと気合で乗り切る仕組みになったり、現場が混乱することになるということに気づかないようです。
しかし、他の人でもある程度まで運用できるようにすれば、自分の理想である、高いレベルの仕事をする仲間が増えるはずです。今までやってきたことの多くは他の人に分け与えればより質の高い仕事に集中できます。付加価値が高まりませんか?
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