「くすりや」の「現場」

薬屋が見た、聞いた、考えた、さまざまなことを書いていくブログ。「ブログに書いてある情報は一般的なものです。ご自身に合ったものにするにも、受診している医療機関のスタッフ、かかりつけの薬局の薬剤師に相談しましょう。」正論でぶっ叩かない医療者に!

薬剤師フィールドリサーチスペシャル「市販薬の手引き発刊で薬剤師・登録販売者によるセルメ支援の活用仕掛ける」

 今回は2021/9/29発行号の「薬局新聞」掲載の「薬剤師フィールドリサーチスペシャル」を掲載します。

 

 

 6月に「その薬、市販薬で治せます」という新書が新潮社より発刊されました。市販薬の実力や、薬剤師や登録販売者の活用を提言し、話題となっています。今回は特集に沿った企画として著者の久里建人さんに取材しました。

 

 

「2年ほど前に、知人のNHKディレクターを介して新潮社から連絡があったのが始まりとお聞きしています。

 

私は2014年12月から「ドラッグストアとジャーナリズム」という、市販薬をテーマにした一般向けのブログを書いています。最初の3年半は毎日更新して、ここ3年は週1回欠かさず更新して、市販薬の選び方や新商品の情報を発信してきました。このブログを新潮社の書籍編集者の女性が読んでくださり、彼女が「本を出しませんか?」とおっしゃってくれたのです。生まれたばかりの子供を抱え、病院へ行けない中で、市販薬で対処したいとネットを検索して、ヒットしたのが私のブログだったそうです。私のブログは、過去に店の推奨品の市販薬を販売しなったことを店長から咎められて悲しい思いをしたという経験から、「消費者に市販薬の客観的な情報を伝えることで、不合理な市場環境を変える」ことを目指して始めたものです。以来、市販薬の成分に着目することで、マス広告に左右されない主体的な選び方の提案や、販売店側が抱える問題の提起を、マスメディアのイベントに一人で参加してプレゼンしたり、雑誌に執筆したり、全国紙の取材を受けたりすることで、伝えてきました。先述のNHKディレクターのかたも、そうした活動を通じて知り合った一人です。

このような経緯がありますので、一般向け書籍の執筆のお話をいただけることは大変ありがたかったです。」

 

タイトルは「その病気、市販薬で治せます」と客が自分で薬を選ぶような印象なのに最終的には薬剤師や登録販売者を頼るように、としたのがニクいなあと思いました.こういう形式になったのはどなたの提案ですか?

 

もともと、市販薬ごとに様々な特徴があることを知っていただき、そのうえで「専門家に聞いてみよう」と読み手が思えるような本にするつもりでした。セルフ販売が主流の市販薬販売の現場で、「自分に聞いてくれれば、もっと提案ができるのに」という悔しい思いをしたことが私には何度もあったからです。本書では「この症状ならこの薬」といったようなノウハウ情報は比較的少ないのですが、それは「この本を読めば、専門家に聞く必要はなくなる」という誤解を読者に与えたくないという気持ちからです。ですから、一部の読者にとってはきっと物足りなく感じるでしょう。本書は、知識を得るよりも、知識を得る必要性と方法を知っていただき、消費者と専門家を橋渡しするための本です。このコンセプトは、最初に執筆の話をいただいた時から自分の中で決めていました。本書には「薬剤師に相談を」というフレーズが度々出てくるのですが、最初の原稿はあまりに多すぎたために担当編集者から「これだと何でもかんでも相談しなくてはいけないことなる」と言われて減らしました(笑) タイトルは、全ての原稿を書き終えたあとで、編集部で考えていただきました。本書のもう1つの重要なテーマは、「市販薬は実は有用である」ということです。タイトルはこちらにフォーカスしてつけられました。

 

妥当性の評価や根拠付などに必要な文献が非常に多く、仕事をしながらの執筆で大変だったと思います。執筆にはどれぐらい時間がかかりましたか?

 

執筆は1章あたり1ヶ月半〜2ヶ月です。ただ、最初の新潮社での打ち合わせが2019年5月でしたので、完成まで丸2年かかっています。まず章立てや構成、コンセプトのすり合わせに3ヶ月かかりましたし、情報の根拠となる文献などを明記することを心がけましたので、この作業にもかなりの時間を要しました。本書の巻末に記した参考文献数は162で、これは新書としては多い方だと思います。本文中で引用した報道記事については、学会・協会・企業に報道内容に誤りがないか直接確認し直したものもありますし、表には名前を出してはいませんが、特定の分野については私より詳しい人に、私の文章の表現やニュアンスに違和感がないかを確認いただいた箇所もあります。

 

 どこまでも正確性にこだわった書籍ですね!お疲れさまです。

それでは最後になりますが、今後の医薬品販売の展望と、久里さんご自身の希望をお聞かせください。

 

市販薬で健康の不安や悩みを解消できる人たちが増えてほしいと思っています。そのためには、今以上にたくさんの議論が必要だと思います。薬剤師という専門家の介入の薄い市販薬市場は、薬学的視点で見るととても不合理なものです。そのような実態を踏まえた上で、今後は「薬剤師が職能を活かせないことは、生活者にとって不利益なこと」という見方も共有していきたいと考えています。例えば新型コロナウイルスのワクチン接種では、もし米国のように、薬局やドラッグストアで接種できたなら、希望者のアクセスは良くなりますし、長期的視点に立てば接種率も高まる可能性があります。緊急避妊薬の市販化は、薬剤師の職能が広ければ、今の遅々として進まない議論を避けられたと思います。薬剤師が活かされず、差し迫って一番困るのは、実は生活者なのです。薬剤師自身のやりがいや将来の報酬のためにといった話は一旦置いて、まずは目の前の困っている人たちのために、「薬剤師を活用してください!」と世間に主張していきたいと、私は思っています。ですから、市販薬の有用性も問題点も、一緒に学び、共有し、そして声をあげていただけたら嬉しいです。

 

もしよろしければバナーのクリックお願いしますm(_ _)m

にほんブログ村 病気ブログ 薬学へ
にほんブログ村 

 にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
にほんブログ村